「下半身主導」の投球動作、子どもに伝える方法は? 故障を防ぐ“段階的”指導法

常磐キッズの投球ドリルの様子【写真:高橋幸司】
常磐キッズの投球ドリルの様子【写真:高橋幸司】

福島・常磐キッズの投球ドリル…上・下半身の連動をわかりやすく

 少年野球の指導における重要な項目の1つが、「投げ方」の指導だ。幼少期に固まったフォームを中学生や高校生になってから修正するのには時間を要する。福島・いわき市の少年野球チーム「常磐軟式野球スポーツ少年団」のキッズ年代(未就学児~小学3年生)にあたる「常磐キッズ」を10年以上率いる村田繁人監督は、「低学年のうちに投げ方を指導する場合、手の動きはほとんど教えません」と話す。その言葉の真意に迫った。

 常磐キッズではキャッチボールをする際、まずは肩甲骨をうまく使えるようにするため膝立ちで投げる練習から始める。その後、立って上体をひねって投げる練習、足を上げて投げる練習と徐々に段階を踏みながら、全身を使って投げる方法を指導している。

「足! 足!」「勢いをつけて足上げて!」「足使って投げて!」「力を逃さないでそのまま(上半身に)伝えて!」

 選手たちが足を上げて投げ始めると、村田監督は選手1人1人の投げ方を観察しながら、繰り返し声を張り上げた。手からボールが放たれるキャッチボールだが、手や腕の動きについて言及することはない。村田監督が理由を明かす。

「(子どもたちに)手ばかり意識させると、投げ方がどんどんおかしくなります。大事なのは下半身と上半身の連動。例えば右投げの場合、(軸足となる)右足に体重を乗せて左足を出す。右足に体重を乗せて溜めた力を、しっかりと指先まで伝えてボールを投げます。足を使って、下から上に力を伝えることを意識すると、自然とフォームがきれいになるんです」

 中には手だけを使って投げられてしまう選手もいるが、その投げ方では肘や肩に負担がかかり、故障の危険性が高まる。故障を防ぎつつ、実戦で通用する投げ方を習得させるべく、下半身を使って投げる意識をキッズの段階から徹底して植えつけている。

投球ドリルの前に“お手玉”をする選手たち【写真:高橋幸司】
投球ドリルの前に“お手玉”をする選手たち【写真:高橋幸司】

「多くを伝えない」シンプルな声かけでキッズ年代の理解を深める

 下半身と上半身の連動について、小学3年生以下の年代に論理立てて伝えるのは簡単なことではない。村田監督は「多くは伝えない」指導を心がけている。足を使って投げる原理を最初から最後まで一気に説明するのではなく、「元気よく足を上げよう」「右足に乗せた力を左足に移そう」などとシンプルな声かけをしながら、段階を踏んでフォームを確立する。

「多くを伝えない」理由は自身の経験に基づいている。以前、投手が投球練習をしている際に、良い投げ方と悪い投げ方を指摘し、それぞれの投げ方の違いを尋ねてみたとこと、大半の選手は「わからないです」と答えたことがあったという。キッズ年代の子どもは、大人が想定している以上に自分の体の動きを理解していないと気づいたのだ。

 村田監督は自身が小学生の頃、イップスになった経験があるという。それも、複数の指導を理解しきれないまま同時に受けたことが原因だった。選手として、指導者として、苦い思い出があるからこそ、的確な指導内容をいかに伝えるか、日々模索している。

(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)

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