監督歴60年の懸念「素材いい子は野球しない」 “攻撃力”進化も…全身「金かかりすぎ」
全日本学童出場チームの監督が危惧する“野球離れ”…実感する他競技の勢い
現代の日本において、少子化ばかりが野球人口減少の原因ではない。スポーツといえば野球一択だった時代は、とうの昔に過ぎ去ったのかもしれない。今年で創部60年を迎える学童野球チームの北ナニワハヤテタイガース(兵庫)は、「高円宮賜杯 第44回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」で2017年以来の準優勝を果たした。現在74歳の石橋孝史監督は、野球をする小学生に「器用な子が減った」と懸念を示す。
石橋監督は、前回の東京五輪が行われた翌年の1965年、弱冠14歳でチームを立ち上げ、監督歴60年を誇る大ベテラン。チームの創設時から歴史の移り変わりを肌で感じてきた、まさに学童野球界の生き字引だ。
「みんな攻撃力はレベルが上がっていますね。ちょっとでも甘く入ったらよう打ちますわ。大人用のバットもよう飛ぶし、道具の進化もありますね」
北ナニワハヤテタイガースは“小学生の甲子園”がまだ「マクドナルド・トーナメント」と呼ばれる以前の「第8回全日本学童軟式野球大会」(1988年)で、昭和最後の全国制覇を飾っている。石橋監督が当時を懐かしそうに振り返る。
「練習試合を含めて1年間で140試合ほどやりますが、1回も負けなかったですね。その当時はスポ少(全国スポーツ少年団軟式野球交流大会)も出ることができたので、両方優勝したのが思い出です」(現在は2大会の同一年同時エントリーは不可)
ユニホームの胸部分には、チーム名にもなっている「疾風(はやて)」の赤文字が輝く。その名の通り、昔は足の速い選手がそろい、機動力野球で相手を翻弄した。しかし、20年ほど前から、徐々に選手の質が変わり、今では「素材のいい子どもは野球してないですわ」とため息交じりに話す。
「器用な子がおらんくなりました。できる子はサッカーやバスケに行きますね。野球はお金がかかりすぎですわ。頭から足までお金かかるのは野球だけでしょう? ヘルメットがいる、ユニホームがいる、ベルトもいる……。そりゃあ違うスポーツに行きますよ」
地元にプロ野球チームがあっても…最近は「バスケ人気が凄い」
広島の強豪・安佐クラブの益成貴弘監督も「選手が集まらないということがある」と現状を説明。6年生こそ11人いるが、5年生5人、4年生4人、3年生2人、2年生1人と、部員勧誘に苦労している。
「広島はカープもありますが、サッカーでサンフレッチェ、バスケでドラゴンフライズといったプロチームがあります。最近はバスケ人気が凄いですね。子どもが野球をやりたくても、お父さんがバスケットをやっていたら、そっちに入れるという話も聞きます。どのスポーツを選ぶのも自由なんで、今いる人数で頑張るだけです」
ベンチ入り22人中、6年生が8人のみの北ナニワハヤテタイガースは「全国大会に出るようなチームじゃない」(石橋監督)と言うが、一、三塁で、一塁走者がわざと牽制に挟まれた隙に、三塁走者が生還するトリックプレーや、内野5人シフトを駆使し、全国約1万チームのファイナリストまで駆け上がった。
少子化だけでなく用具の高騰など、難しい問題はある。その中でどう野球の奥深さや魅力を感じてもらうか。子どもや保護者の興味、関心を引き、醍醐味を肌で感じてもらうのも、指導者たちの重要な役割だ。
(内田勝治 / Katsuharu Uchida)
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