自己最速続出も「球速向上が目的ではない」 延命のプロ生活…“徹底管理”指導の原点
社会人や育成年代を指導する元ロッテ・荻野忠寛氏「誰にでもプロになる道はある」
かつてロッテで背番号「0」のリリーフ投手として活躍し、「ミスターゼロ」の異名を取った荻野忠寛氏は、現在、自ら立ち上げた指導理論「スポーツセンシング」を日々アップデートしながら、指導者として活動している。中学硬式クラブ「館林慶友ポニー」で育成年代の指導にあたるほか、昨年からは社会人野球・JFE東日本のコーチに就任し、今年7月には3年ぶりの都市対抗野球出場に導いた。
社会人野球の最高峰である都市対抗野球では、1回戦で日本製鉄かずさマジックに5-6と惜敗。それでも、JFE東日本の投手陣は荻野氏のコーチ就任後、軒並み自己最高球速を更新し注目を浴びている。
荻野氏は「『どうやって速くしているの?』と聞かれることがありますが、僕の指導の目的は、球を速くすることではありません。肩や肘の故障を予防し、安全に投げることです。理にかなったフォームで投げれば、まず怪我のリスクが減り、結果的にスピード、コントロール、回転数も向上する。多くの球数を投げられるようになり、回復も早くなり、好不調の波を小さくすることもできるのです」と強調する。
理にかなったフォームとは、どんなものなのだろうか。「僕が教えるのは、一番根本的なことだけです。簡単に言えば、下半身の体重移動によって生まれる力を、いかにロスを少なくしてボールに伝えるか、という理論。それが、肩肘を守ることにつながります」と説明。選手たちには「これさえ守れば、あとは好きに投げていいよ。でも、これを守らないと、怪我のリスクが上がるよ」と徹底を求めているという。
投手陣の日々の練習は、荻野氏がグラウンドに顔を出せない日を含め、専用アプリを活用して徹底管理している。「練習前と練習後に自分で、体全体の疲労感、肩肘の状態、背中・腰の状態、下半身の状態を書き込んでもらっています。それを踏まえて、トレーニングの負荷やブルペンでの球数などをコントロールしています」と明かす。
プロからアマチュアに復帰して痛感した「“センス”の違い」
荻野氏自身は東京・桜美林高、神奈川大、社会人野球の日立製作所を経て、2006年にロッテから大学生・社会人ドラフト4位指名を受け入団した。1年目の2007年にいきなりリリーフで58試合に登板し20ホールド。2008年には守護神として58試合5勝5敗30セーブ、防御率2.45。2009年にも53試合に登板した。
3年連続50試合以上登板の影響もあってか、4年目以降は相次いで肘や肩の手術を余儀なくされたが、その経験が現在の指導理論につながっている。
「僕の場合はアマチュア時代のダメージが大き過ぎました。ボロボロの状態でプロに入って、むしろ入団当時のボビー・バレンタイン監督に“延命”してもらったと思っています。今振り返ると、現役時代には自分の体を使って、壮大な実験をしていたようなものだと思います」と語る。
2014年限りで8年間のプロ生活にピリオドを打つと、古巣の社会人野球・日立製作所に復帰し2年間プレー。現役引退後は会社に残る選択肢もあったが、指導者を志して退社した。当初は大学院などで学ぶことも考えたが、既成の理論に自分が求めるものが見当たらず、「独学でつくることにしました」と笑う。
「僕はプロから社会人野球に戻った時に、『“センス”が違い過ぎる』と痛感しました。社会人の選手も一生懸命練習するのですが、客観的に見ていて、これをずっと続けていてもプロ野球選手にはなれないと感じました。どれだけ多くの練習量をこなしても、的確な方向性、自分がどんな練習を選べばいいのかがわかっていないと、改善はされません」
荻野氏は「センス」を「自分を成長させる能力」と定義し、それを磨くことに基軸を置いた自身の指導理論に「スポーツセンシング」と名付ける出発点となった。
「たとえば、プロ野球選手になりたい子どもがいる。誰にでもプロ野球選手になるための道は必ずあると、僕は思っています。ただ人によって道が違うので、自分の道を見つけられるかどうかが大事。道を間違えていたら、どんなに努力をしてもたどりつけません。道を見つける能力(=センス)をつけていかないといけません」と力を込める。
高校→大学→社会人→プロ→社会人と多彩な野球人生を歩み、怪我との闘いも経て、ユニークな指導理論を構築し、日々深めている荻野氏。どんな選手を育てていくのか、今後が非常に楽しみだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
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