小学生に“四球出すな”は「味方が敵になる」 新球団で登竜門へ…元ドラ1が育む“将来価値”

くふうハヤテジュニアの中村勝監督【写真:高橋幸司】
くふうハヤテジュニアの中村勝監督【写真:高橋幸司】

12球団Jr.に挑む「くふうハヤテジュニア」を率いる元日本ハムの中村勝監督

 トップチームで投手コーチを務めながら、小学生育成にも携わる――。元ドラ1右腕は、そんな難題にも大きなやりがいを感じている。26日から開幕する「NPB12球団ジュニアトーナメント KONAMI CUP 2024 ~第20回記念大会~」(神宮球場、ベルーナドーム)で、招待チームの「くふうハヤテベンチャーズ静岡ジュニア」を率いるのが、元日本ハム投手の中村勝監督。NPBや海外で戦い抜いてきた経験を子どもたちに伝えつつ、新たに産声をあげたチームで大舞台に挑む。

 2005年にスタートした「12球団ジュニアトーナメント」は、20回目を迎えた今回、新たにくふうハヤテと、オイシックス新潟アルビレックスBC、ルートインBCリーグ、四国アイランドリーグplusのジュニアチームを招待。この4チーム内で2勝をしなければ12球団のジュニアへの挑戦は得られない組み合わせだが、「まず2試合、神宮で戦える権利はいただけている。成功体験を味うことで、中学、高校へのいいステップになる」と中村監督は意気込む。

 メンバー16人中15人は静岡県内の小学生たち。本番に向けて各地に遠征へ出向き、巨人やDeNA、ヤクルトなど逸材をそろえたチームに胸を借りてきた。「初めは点差があろうとなかろうと力の差を感じることが多かったんですが、徐々に本当の“野球の勝負”になってきている。(小学生の)早い段階で高いレベルを知られるのは大きいこと」と手応えを感じているという。

 2009年ドラフト1位でプロ入り。中村監督の現役時代といえば、球速130キロ台の数字以上にスピード感とキレのある速球が印象的だった。それが日本ハムを退団後、2020年に渡ったオーストラリアでトレーニング方法を変え、MAXを140キロ台へと押し上げた。

「端的にいうと、ピッチングの動きに近いウエートに変えて、フィジカルと噛み合うようになったんです。ジュニアは活動期間が短いので深いところまで教えられませんが、僕にとっては、そっちの方が得意というか楽しさがあります」。練習試合の合間にも器具を使って、選手に熱心に指導する姿が見られた。

 限られた時間でフォームやフィジカルを大きく変えるのは難しいが、意識面は変えられる。自身の経験を基に伝えているのが、マウンド上での心構えだ。配球をどう考えるか、ストライク先行で勝負するにはどうするか。「『フォアボールを出すな』『エラーをするな』と言うのは簡単。でも、僕はそれで意識しすぎて四球を出してしまう人間でした。味方が敵になってはいけない」。子どもたちが萎縮せず、伸び伸びと勝負できるよう声掛けに努めている。

限られた時間内で選手に体の使い方を伝授する【写真:高橋幸司】
限られた時間内で選手に体の使い方を伝授する【写真:高橋幸司】

パワー野球の影響を懸念…細かい野球を知って将来的に価値のある選手に

 現代野球の“風潮”の、少年野球界への影響にも中村監督は懸念を示す。打者を圧倒する豪速球、一発で勝負を決めるホームラン……。パワー野球は魅力的だが、小中学生の段階でそれらを追い求めてしまうと、将来的な引き出しは作れない。「走塁などの細かい部分を早いうちに知っておけば、逆に体のレベルが上がっていった時に価値のある選手になれます」。高校以降に進んだ時に壁に阻まれないよう、“考える力”の重要性も説いている。

 海外球界での経験は野球振興への学びにもなった。オーストラリアでは子どもたちへの野球の入り口を広げるために、できるだけハードルを下げる工夫をしていた。「いきなりキャッチボールをしたり、動くボールを打ったりするのは難しい。まずは『思い切り遠くまで投げてみよう』、止まっているボールを『思い切り打ってみよう』と、簡単なところから楽しさを伝えることが大事だと知りました」。

 くふうハヤテはトップチームもジュニアも、まだ発足したばかり。それだけに野球を通した地域振興にもさまざまな可能性を持つし、NPBジュニア出場は1つのステップとなるはずだ。「負けて気持ちいいよりも、勝ってしんどい野球を」。“プロの登竜門”と呼ばれる大舞台で、将来につなげる勝利を16人の精鋭たちとつかみ取る。

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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