丸刈りの野球部「サッカーにジェラシーあった」 無い物ねだりの関係変えた“黒田先生”

サッカーJ1・FC町田ゼルビアを率いる黒田剛監督【写真:徳原隆元】
サッカーJ1・FC町田ゼルビアを率いる黒田剛監督【写真:徳原隆元】

青森山田シニア監督が語る日本一への転機…“常勝軍団”作った名将からの学び

 野球とサッカー。競技の垣根を越えた“学び”が「日本一」の礎になった。2021、2022年に日本選手権を連覇した中学硬式野球の強豪「青森山田リトルシニア」の中條純監督は、「日本一を目指し実現できるチームを作る上で、黒田先生の存在はすごく大きかったです」と口にする。「黒田先生」とは、青森山田高サッカー部の前監督で、現在はJ1・FC町田ゼルビアを率いる黒田剛監督のこと。高校サッカーの常勝軍団を作り上げた名将から、何を学んだのか。

 中條監督が青森山田シニアの監督に就任したのは2015年。青森山田中には事務職員として赴任した24歳の中條監督にとって、同中副校長だった黒田監督は「上司」の一人だった。そして野球とサッカーの間には大きな“壁”があった。

「学校の中で、野球とサッカーが手を取り合う雰囲気はありませんでした。昔から丸刈りの野球部は、長髪のサッカー部にジェラシーを感じ、サッカー部は『自分たちの方がかっこいい』と思いつつメディア露出の多い野球部を羨んでいた。『お互い無い物ねだり』の関係が続いていました」

 青森山田は、中高ともに日本トップレベルの実力を誇るサッカー部が「看板部活」。中條監督自身も「学校がサッカー中心に回っているのが悔しかった」と、劣等感を抱いていた。1994年から高校サッカー部で指揮を執っていた黒田監督を、上司でありながら「勝手にライバル視」し、ひたすら練習と生徒募集に奔走する「力業(ちからわざ)」のチーム強化に明け暮れていたという。

青森山田シニアの中條純監督(中央)【写真:加治屋友輝】
青森山田シニアの中條純監督(中央)【写真:加治屋友輝】

一方通行のミーティングは「選手に苦痛で無駄な時間」…“会話のキャッチボール”で変化

 しかし、東北大会でコールド負けを喫するなど、日本一への突破口はなかなか開けず。模索を続ける中、「みんなが遠くから足を運んででも話を聞きに来る黒田先生が、同じ職員室にいるのだから、学ぶしかない」と思い立ち、上司でありライバル視する黒田監督に教えを請うようになった。

 チームマネジメント、目配り、気配り、心配り……。黒田監督が技術向上以外に重視している要素は多岐にわたった。教えを聞いた中條監督は、次のように実感したという。

「自分たち指導者がいくら日本一を目指すと口にしていても、選手たちがそのマインドになっていなければ糠に釘。選手のマインドが整っていなければ、練習やミーティングは彼らにとって苦痛で無駄な時間にしかならない」

 技術を向上させるだけでなく、それを発揮させる方法を考えて実行する。指導者に求められる役目は、野球もサッカーも同じだと気づかされた。

 以前までは「若かったこともあり、話しかけづらい雰囲気を出して選手と一線を引いていた」という中條監督だが、黒田監督の助言を受けて接し方を変えた。選手と話す時間を増やし、ミーティングは一方通行でなく、“会話のキャッチボール”になるよう心がけた。事務職員から保健体育教師に立場が変わったこともあって、グラウンド外での距離も縮まり、時に冗談を言い合ってオンオフの切り替えを明確にした。

 すると、選手たちは自ら「日本一」というワードを口にするようになり、本気で日本一になるための方法を考え始めた。選手のマインドの変化は結果にも現れ、悲願の目標にたどり着いた。

 きっかけを与えてくれた黒田監督には、今でも困った時は相談に乗ってもらうという。「毎回、アドバイスだけでなく厳しいことも言われます。でも、それが活力になる。語彙力を使って(受け手の)マインドを整えるのがうまい人なんです」と中條監督。“壁”を破った先に光があった。

(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)

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