キャッチボール前に必ず入れる“筋トレ” 締めは逆立ち…中学強豪が実践するユニーク練習

2年ぶりに3rdエイジェックカップに出場した佐賀フィールドナイン
“頂上決戦”にたどり着いた裏に、こだわりの練習があった――。中学硬式野球5リーグの全国王者による「3rdエイジェックカップ 中学硬式野球グランドチャンピオンシリーズ」が8月27~29日に開催された。フレッシュリーグ代表の佐賀フィールドナイン(佐賀)は28日の準決勝で、ボーイズリーグ代表の東海中央ボーイズ(愛知)に1-3で惜敗。2年ぶりの決勝進出はならなかった。
2点を追う7回に訪れた無死満塁の絶好機も無得点で試合終了。若林暁生監督は「こういうチャンスはめったにないのに……。いい試合じゃダメなんです。勝たないと意味がない」と無念さをにじませた。選手たちは崩れ落ちて号泣。「負けてメソメソしてちゃいかん。泣くぐらいだったら、最初からちゃんとやっておけばいい。バントミスもあったし失点もミスによるもの。すみません、気持ちが高ぶっていて……」と声を絞り出した。
2年前は準優勝。今回はもう1つ上の頂点を狙っていただけに悔しさが募る。「負けてしまうと心が折れそうになってしまう。やるからには勝利を目指さないと」。普段の練習から緊張感が漂う。ただ、以前とは変化が生じているという。
「昔は、例えば構えや打ち方が、チーム方針で全員同じ形に持っていくケースもありました。でも今は必要以上に細かいことは教えない。型にはめないことを意識しています。子どもたちはまだ筋力が発達段階なので、型にはめるとスケール自体が小さくなってしまうんじゃないかという思いがあります」
細かい点に目をつぶりつつ基本動作は徹底し、基礎体力の向上にも努める。そんな練習の中で、必ず行うのがキャッチボール前の腕立て伏せ10回。「365日、試合の有無に関係なく、練習がある日は必ずやります。体幹が強くなるし、肩甲骨も柔らかくなる」。回数は10回と少ないが「鍛えようというより、筋肉に刺激を与えましょうというニュアンスです」と説明した。
それだけではない。練習の最後には逆立ちを1分間、両肘をつく体幹トレーニングの「プランク」を30秒、それぞれ3セット行う。バランス感覚を養い、体幹を鍛える。「中学生は体幹が一番重要じゃないかと思っています。体の幹ですよね。枝葉は高校に行ってからでもつくという見解でやっています」。怪我予防の効果もあり「うちのチームは腰痛の選手がいない。激突とかを除いて、蓄積の怪我も少ないです」とうなずいた。

投手の育成は「バランスが難しい」
成長期の中学生の指導で難しい部分に、投手の育成を挙げる。試合では球数制限もあり「あまり投げないと、投げる筋力やスタミナがつかない。でも毎日投げたら壊れてしまう。バランスが難しい」と思案する。「体が先に大きくなる選手と、そうじゃない選手がいます。どうしても小さい選手が大きい選手に合わせて力を入れる部分がある。スピードを求めてしまって、そこで壊れるケースがある」と細心の注意を払って指導している。
その成果もあって2年ぶりに出場した今大会。先発した本格派右腕の久我海俐(3年)は179センチの長身から投げ下ろす130キロ台中盤の直球に変化球を交えて好投したが、及ばなかった。目を真っ赤に腫らし、止まらない嗚咽。「今までみんなで必死に乗り越えてきました。みんなで最後は意地を見せられました。悔いはないです」。必死に言葉をつないだ。
九州のチームとしての苦労について、若林監督は「大変さはあります。地方のチームは練習試合をする相手はだいたい決まってくる。数少ないチームの中でも同じようなチームと年間何試合も対戦する」と話す。「やっぱり都会のチームは周りにいろんなチームがあって、いろんなチームと練習試合をする機会がある。だからプレー自体が洗練されている。洗練度の差があります」。その差を埋めるには「全体的な組織力を上げないといけない。控えの選手のレベルを上げた方がいい」と力を込めた。
3年生にとっては中学野球最後の大会が終了。県外に進学する選手も、県内に残る選手もいるだろう。佐賀北が夏の甲子園で優勝した2007年から18年。中学硬式野球の“真の日本一決定戦”で、がばい旋風を起こすことはできなかったが、野球人生はまだ続いていく。「佐賀は甲子園で2回優勝してますし、佐賀に残った子には佐賀を強くしてもらいたいなという気持ちもありますね」。
指揮官は「勝たないと意味がない」と繰り返したが、涙に濡れた今回の惜敗は成長の糧になる。ユニークな練習で鍛えられた選手たちは、新たなステージで勝利を追い求めて努力を続けていく。
(尾辻剛 / Go Otsuji)
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