少年野球に根強い「アッパースイング=悪」 大阪桐蔭OBが警鐘…打撃理論を誤る“最大の理由”

大阪桐蔭元主将・水本弦氏「スイングは構えからフォローまで“振り子”のイメージ」
打撃理論は時代とともに変化する。知識をアップデートしない指導者は、選手の成長を妨げる可能性もある。大阪桐蔭の主将として甲子園で春夏連覇を果たし、現在は野球塾を運営している水本弦氏は、「アッパースイング」への誤解に警鐘を鳴らしている。
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野球塾で指導していると、子どもたちや保護者、チームの指導者が誤解している打撃の理論が少なくありません。その中の代表的なものが、「アッパースイング」に対する考え方です。
小・中学生のチームでは「アッパースイング=悪」という認識が根強く、上から叩きつけて打つ指導が今も主流と感じています。グリップよりもヘッドが下がる打ち方をする選手は、「ヘッドを下げるな」「アッパースイングになっている」と指摘されます。
アッパースイングが間違って解釈されている最大の理由は、スイングの一部分にしか目を向けていないところにあります。スイングのフォローだけを見ると、バットの軌道は下から振り上げる“アッパースイング”になっているかもしれません。しかし、スイングは構えからフォロースルーまで全体で考える必要があり、そのイメージは「振り子」です。
トップの位置からバットを振り始めた時の軌道は“ダウンスイング”となり、そこから投球の軌道にできるだけ長い時間バットの芯を入れるために“レベルスイング”になります。そして、投球を捉えた後のフォローが“アッパースイング”になるわけです。
上から叩きつける打ち方は、投球に対してバットを点で当てる形になります。しかし、振り子のイメージでバットを振ると、レベルスイングの間は面で投球を捉えられるため、バットに当てる確率を格段に高められます。

「低めに届かない」「打球が上がらない」で腕の動きにだけ目がいく
最近はSNSなどの動画を参考にして、フォローの軌道をアッパースイングにするところが重要だと誤解してバットを振っている選手を見かけます。そういう選手に話を聞くと、「低めの球にバットが届かない」「打球が上がらない」という声が多いです。原因は腕の動きにばかり目がいってしまい、下半身の動きを理解できていないケースが大半です。
バットを振り上げる打ち方は、そこに至るまでの下半身の体重移動が重要です。軸足に体重が残りすぎてしまうと、バットが下がってしまい、振り上げる時に角度がつきすぎてしまいます。投球の軌道にバットの芯を通すレベルスイングの時間が短くなり、確実性の低いアッパースイングになります。
SNSの動画では、理想のスイングを身に付けるためのドリルも公開されています。上半身に特化したドリルは、上半身の動きを覚える上では効果的です。ただ、打撃フォームは下半身の動きも含めて完成するものなので、上半身のドリルの形で打席に入っても、結果を残すのは難しくなります。
プロ野球選手でも練習中や打席に入る前、極端な動きでバットを振る場面を見たことがあると思います。あくまでも意識付けなので、そのままのスイングで投手と対戦するわけではありません。情報があふれる今の時代は、選択する内容と活用の仕方が非常に大切です。そこを誤ると、せっかく練習時間を割いても結果につながらず、選手のモチベーションが下がってしまいます。指導者には知識や理論、情報を取捨選択する力が今後さらに求められると感じています。
(水本弦 / Gen Mizumoto)
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