肩の怪我予防へ、本当に効果的なストレッチは? カギは“静”と“動”の組み合わせ
そもそもなぜストレッチをする? 重要なのは競技特性に則した身体を作ること
肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」だと語ります。実際に、練習中の投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。
では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、一体どのようなことなのでしょうか。古島医師は休養の重要性を訴える一方で、体を鍛えたり、柔軟性を高めたりすることも必要だと話します。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータ、簡単にできるトレーニングやストレッチなども紹介していきます。今回の担当は綿貫大佑さんと貝沼雄太さん。ウォーミングアップで取り入れると効果的な肩のストレッチについて解説します。
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スポーツを行う前にはストレッチを行いますが、そもそもなぜストレッチをするのでしょうか? ストレッチの目的はその動作に見合った十分な可動域(関節が動く範囲)を確保することで怪我を予防し、パフォーマンスを向上させることです。筋肉を伸ばして可動域を広げる方法としてスタティック(静的)ストレッチが有効であり、多くの方が実践されていると思います。
スタティックストレッチは反動や弾みをつけずに筋肉をゆっくりと伸ばし、伸ばした状態を維持するストレッチです。時間は15秒以上行うことが必須と考えられていますので、1回のストレッチ時間は15秒以上にしましょう。しかし、スポーツを行う直前のスタティックストレッチはその後のパフォーマンスを低下させるとも指摘されており、特に瞬発力など大きな力を発揮する能力が低下すると言われています。
それでは、スタティックストレッチで怪我を予防しながらパフォーマンスを落とさないためにはどうすればいいのでしょうか? その答えを教えてくれる研究を紹介します。
この研究では、女性ハンドボール選手21人を「スタティックストレッチのみを行ったグループ」「動的ウォームアップ(ブラジル体操に代表されるような反動をつけて行うストレッチ)のみを行なったグループ」「スタティックストレッチと動的ウォーミングアップの両方を行なったグループ」の3つに分けてテストを実施。それぞれのグループがストレッチやウォーミングアップを行なった後に可動域、メディシンボール投げの距離の測定を行いました。
その結果、スタティックストレッチを行なったグループとスタティックストレッチと動的ウォーミングアップの両方を行なったグループで可動域が広がっていましたが、動的ウォームアップのみを行なったグループでは可動域は広がっていませんでした。また、スタティックストレッチを行なったグループではメディシンボール投げの距離は低下していましたが、スタティックストレッチと動的ウォーミングアップの両方を行なったグループでは距離の低下はありませんでした。以上のことから、怪我を予防しつつ最大限のパフォーマンスを発揮するためには、スタティックストレッチと動的ウォーミングアップを組み合わせて行うことが望ましいと考えられます。
パフォーマンスに最適な柔軟性は競技種目によって異なります。特に野球などのオーバーヘッドスポーツは肩、胸郭、股関節などの可動域を多く必要とするため、スタティックストレッチと動的ウォーミングアップを組み合わせて競技特性に則した身体を作ることが大切です。
今回はスタティックストレッチの方法を紹介。動的ウォーミングアップは、今後改めて説明します。