肩甲骨は腕が力を発揮するための“土台” 自在に動かせるようになるトレーニングとは
肩甲骨は筋トレの前に自在に動かせるように 理学療法士がトレーニング方法を紹介
肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」と語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。
では、成長期の選手たちが故障せず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。この連載では、古島医師と共に野球の現場にも足しげく通う慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、体の構造についての説明や実際の研究に基づいたデータ、簡単にできるトレーニングやストレッチなども紹介していきます。今回の担当は齊藤匠さんと貝沼雄太さん。テーマは「肩甲骨」です。
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肩甲骨については、大半の方がその存在を知っていると思います。しかし「その役割は?」と聞かれると、専門家しか答えられないのではないでしょうか。肩甲骨は腕の骨(上腕骨)と関節を作り、その関節を肩関節と言います。ここで注目してほしいのは、土台となる肩甲骨がしっかりしていないと、腕の骨(上腕骨)は力を十分に発揮できないということです。
それでは、土台である肩甲骨をしっかりさせる方法はあるのでしょうか。
肩甲骨の動きはとても大きく、関係する筋肉は17個もあります。そのため、肩甲骨は自在に動かせるようになるトレーニング(モーターコントロールトレーニングといいます)が重要であると言われています(※1)。肩甲骨周りの筋力トレーニングをどんなにやっても、肩甲骨を動かせるようになっていなければその効果は半減してしまいます。そのため、筋力トレーニングをする前にモーターコントロールを行うことが推奨されます。
野球選手の肩甲骨の機能低下には一定の法則があると言われており、レトラクション(肩甲骨を背骨に引き寄せる動き)の筋力が低下すると言われています(※1)。この動きに関わるのは背中へとつながる僧帽筋下部線維という筋肉です。この筋肉が低下するとトップポジションを維持できなくなり、肘が下がる原因となってしまいます。また、肩甲骨と肋骨をつないでいる前鋸筋という筋肉は投球動作中にずっと働き続けるため、その強化は重要と言われています(※2)。
肩甲骨のモーターコントロールを行う場合は、肩甲骨のみを動かすトレーニングは望ましくないと考えられており、体幹や下半身も一緒に動かすことが推奨されています(※1)。体幹や下半身を連動した動きの中で肩甲骨を動かせるようにするモーターコントロールと、しっかり動かせるようになった後に行うモーターコントロールをそれぞれ紹介したいと思います。
▼参考文献
※1 Sciascia A, Kibler WB. Current Views of Scapular Dyskinesis and its Possible Clinical Relevance. Int J Sports Phys Ther. 2022, 17(2):117-130.
※2 Jobe FW, Pink M. Classification and treatment of shoulder dysfunction in the overhead athlete. J Orthop Sports Phys Ther. 1993, 18(2):427-32.