短期間で「楽しく」球速アップ 2.6キロ増も実現、中学生でもできる筋トレ方法

球速を上げるためのトレーニングを比較、最も効果的だったのは?

 肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」だと語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。

 では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。古島医師は休養の重要性を訴える一方で、体を鍛えたり、柔軟性を高めたりすることも必要だと話します。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータも交えながら、怪我をしない体作りのコツを紹介していきます。今回の担当は齊藤匠さんと貝沼雄太さん。テーマは「球速を上げるためのトレーニングプログラム」です。

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 野球の高いパフォーマンスの要素の一つとして球速が挙げられます。球速が速ければ、打者がバットを振るかどうかを判断する時間が短くなるため、打ち取れる確率が上がります。さらに、直球の球速が速いとカーブやチェンジアップなどのオフスピードボールがとても有効になります。

 また、野手も走者をアウトにするために、より速い送球が必要となります。そのため、速いボールを投げることは野球選手にとって欠かせない能力だといえます。では、球速を上げるにはどうしたらよいのでしょうか?

 球速を上げるために提唱されている3つのトレーニング方法を比較した研究を紹介します。この研究では、14歳~17歳の68人の野球選手を3つのグループに分けて効果の差を検証しました(※1)。

 1つ目は「Thrower’s Ten」というトレーニングプログラムです。これは投球に必要な上肢の筋力をつけることを目的としています。そのため、ダンベルやチューブを使い、ゆっくりと動かして筋肉を鍛えています。「Thrower’s Ten」は以前の記事「球速が6週間で1.7%向上した例も 市販ゴムチューブでできる成長期のトレーニング」で紹介していますので、そちらを参考にしてください。

 2つ目は「Keiser Pneumatic」というトレーニングプログラムです(以下KPプログラム)。KPプログラムは「Thrower’s ten」と異なり、カイザー社のトレーニング機器を使っています。下半身から上半身にかけて連動した動きの中で鍛えるトレーニングです。ボールを投げる動きは対角線に腕を振るため、この動きで爆発的な力を発揮できるようなプログラムになっています。

 3つ目はプライオメトリックトレーニングです。このプログラムはメディシンボールやチューブを使い、筋肉の反射を利用して瞬間的に大きな力を発揮させる運動です。メディシンボールを野球と同じような動きの中で投げたり、上から下に叩きつけたりします。プライオメトリックトレーニングは以前の記事「成長期に効果的 段差があれば十分…『走る』『跳ぶ』」のスキルを上げるトレーニング」でも紹介しています。

 これら3つのプログラムは1回約45分として週に3日、6週間行われました。では結果はどうなったでしょうか。

 6週間後に「Thrower’s Ten」は1.9キロ、KPプログラムは1.4キロ、プライオメトリックトレーニングは2.6キロ、向上していました。また、それぞれのプログラムに対する感想も報告されており、「楽しかったか?」という質問に対しては、「Thrower’s Ten」は「非常に楽しい」が50%、「楽しい」が50%、KPプログラムは同じく67%と33%、プライオメトリックトレーニングは71%と29%でした。トレーニングを継続するためには楽しいことも重要な要素となります。プライオメトリックのように大きく体を動かすプログラムであれば飽きずに取り組めるかもしれません。

プライオメトリックプログラムのやり方を解説

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