関東勢に完敗→本番V肉薄 精鋭小学生に注ぐ“あえての厳しさ”「照れ笑いはいらない」
「泥臭さで圧倒を」…楽天Jr.の大廣翔治監督が16人に施す“基礎づくり”
26日に開幕する「NPB12球団ジュニアトーナメント KONAMI CUP 2023」。19回目を迎える大会において、過去5年で優勝1度、準優勝2度、昨年も3位と上位進出の常連となっているのが、東北楽天ゴールデンイーグルスジュニアだ。監督就任4年目を迎えた球団OBの大廣翔治さんは、「グラウンド上では、あえて選手たちに厳しく接しています」と語る。その理由とは、どこにあるのだろうか。
小雪が舞う12月中旬、楽天ジュニアが合宿を行う仙台市内の楽天モバイルパーク宮城の室内練習場を訪れると、場内にはピリッとした緊張感が漂い、冷たい空気を切り裂く選手たちの大きな掛け声が響いていた。
「屋外だともっとピリッとしていますよ。選手たちはユニホームに土をべっとりつけて練習しています」と大廣監督。ホワイトボードに書かれた「気迫・根性・常に泥臭く攻める」「日本一厳しい練習をして本大会に臨む」の文字が、目に飛び込んでくる。
選考をくぐり抜け、東北6県から集まった16人(青森5、秋田3、岩手2、宮城4、山形1、福島1)の精鋭小学生たちは、9月末から3か月にわたって土日に強化合宿を行い、実力と結束を高めてきた。指揮官が「最初はメチャメチャきつかったと思う」と言うように、練習は朝8時から夕方5~6時まで量も密度もぎっしりと。体力増強に向けた「食トレ」にも力を入れ、挨拶はもちろん、用具を大事にするなどの礼節も重んじる。選手たちはグラウンドを手でならすなど、プレーが丁寧になり謙虚な心が備わってきた。
グラウンドに入れば同じ“野球人”として見るし、保護者にも「この子たちのレベルに合わせることはありません」とまず初めに伝える。大廣監督がセレクションで重視したのも、きつい練習を乗り越えて成長できるだけのハートの強さ。「三振したのに照れ笑いを浮かべているような子より、技術は多少粗くても悔しさを露わにする子の方が成長できます」。
ジュニア卒業後も見据えて「基礎を作って送り出してあげたい」
では、なぜ選手たちに、あえての“厳しさ”を持って接し、向上心の強さを求めるのか。まずは、他地域との野球のレベル差だ。チーム結成当初は、仙台市の選抜チームにも負けるような状態からスタート。関東遠征に出ても、層の厚い巨人ジュニアやDeNAジュニアに完敗するケースがほとんどだという。
「そのままやっていたら、本番もコールド負けで終わりです。力が足りないなら何をする? 彼らが100回バットを振っていたら、君らは1000回振らないと、彼らも努力をしているんだから抜かせないよね、と」。そうした悔しい経験で自分の立ち位置を知り、中には1日2500回もバットを振り込む選手も出てくる。
さらには、「ジュニア卒業後」も見据えているからだ。「野球の世界は甘くはありません。これから強豪校に進むとしても、すごい選手は全国にいっぱいいる。体力・精神面でついていけない、求められる技術ができなくてレギュラーになれない、などということがないよう基礎を作って送り出してあげたいんです」。桐生第一、東洋大、そしてプロの世界と第一線を歩んできた実感を込めて語る。
特に徹底的に取り組むのはバント・走塁。中学、高校と上のレベルに上がっても必要とされる技術だ。バントができない選手には、正しい形を教え、繰り返し突き詰めて練習をさせる。
もちろん、厳しい練習をする分、トレーナーとの情報共有や、保護者とのコミュニケーションを密にとり、指導方針をしっかり伝えることも欠かさない。マシンの球入れや球拾いなど全面サポートする練習中の保護者の姿からは、チーム内外も含めての結びつきの強さが見てとれる。「毎年上位に行けるのは、親御さんたちの協力があってこそ」と指揮官も感謝する。
本番でも、バント・走塁で相手を崩してリズムを作り、少ない点数で勝機を手繰り寄せる。「本当は、どんどん打たせてあげたいのが本音なんです。でも、まともにぶつかっては勝負になりません。泥臭く、次の塁を奪いにいく気迫で相手を圧倒していきたい」。約3か月間、厳しさを乗り越えてきた選手たちに、心に残る経験を。その第一歩は神宮で、難敵・ソフトバンクに挑む。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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