荒れた土に激怒「どこ目指している?」 背向ける監督、焦る選手…忘れえぬ夏の日の“反省”
大阪交野リトルシニア…岩橋監督の指導で選手たちは野球を辞めず次ステージへ
多くの中学生がこの春、チームを卒団し、新たなスタートを切る。中学から高校に進む上で、野球を辞める選択をする選手も多数いるが、昨年、全国大会にも出場した「大阪交野リトルシニア」の中学3年生の代は、ほとんどの選手が高校で野球を続ける。指導者の厳しさの中にある愛情が、選手のその先の人生へと向けられていたからだった。
不安や期待……様々な思いを持って、選手たちは高校野球の世界へと飛び込む。交野リトルシニアで主将を務めた野谷空斗内野手は「高校に行っても主将をやりたいです。中学の厳しい練習に耐えられたから、頑張れると思います。高校で活躍して、岩橋監督に良い報告をしたいと思っています」と自信を胸に新たな世界へ歩を進めていく。
岩橋良知監督は社会人野球の名門・日本新薬でも監督、コーチを務めた名将。選手全員を自分の子ども同様に接し、時には厳しく、そして優しさも併せ持っている。保護者からも「飴と鞭を使い分ける情に熱い方。厳しく指導した後も絶妙なフォローで親子ともにやる気にさせてくれる方です」と厚い信頼が寄せられている。
野谷主将はシニアでプレーした3年間で「監督のおかげで変わることができました」と、心の成長を自分自身で感じていた。入部当初は口下手で、人を引っ張っていくタイプではなかった。「怒られたこともありましたが、ただ怒るわけではなく、理由もきちんと説明してくれました。そういうところにみんなが惹かれていったのだと思います」。かけられた言葉を思い返しながら、ある夏の日の出来事を思い出していた。
グラウンドでの練習中のことだった。監督から水分補給の休憩とトンボかけの整備の時間を与えられた。その後はノックによる守備練習の予定だった。選手たちはそれぞれ飲み物を口に含み、グラブを持って、守備練習に入ろうとした。だが、練習再開の時、まだ整備はされていないままだった。選手たちは休憩だけの時間に当ててしまい、監督の指示を守ることを怠った。
監督は「帰る」とグラウンドに背を向けた…焦った選手たちがとった行動
選手たちは集められ、整備をしなかったことへの監督からの“お叱り”があった。飴と鞭を使い分ける岩橋監督とはいえ、叱る時は鬼と化す。野谷主将は「お前らはどこを目指しているんだ!? とも言われました。そのあと、監督は『帰る!』と出ていってしまいました。ヤバイと思いました」。焦った主将はナインを連れて、監督の背中を追いかけた。
これまでも監督やコーチから、グラウンド整備の大切さについては説明を受けてきた。それは細かいところへの目配り、気配りにつながるから。それができなければ、相手へ“隙”を見せることに繋がりかねない。それに高校、大学と進んだ先でトンボを誰よりも早く取りに行き、率先して整備する姿は、野球人として周りを納得させる“材料”になる――。人間としても備わっていてほしい部分がそこにはあった。
単純にノックをする前のグラウンドが荒れていたから怒ったわけではない。設定した目標に向かっていく選手たちの姿に、行動の甘さや意識の低さが見えたからだった。岩橋監督は日本新薬の指導者時代から、グラウンド整備や野球用具の扱いについては選手たちに厳しく指導をし、チームの強化に繋げてきた。それをこの代の交野シニア41期生に伝えたかった。
野谷主将は考え、全員の気持ちを一つにして、監督へ思いを伝えに行った。言葉で伝えると理由を説明され、許しを得た。「しっかり反省しようと話をしましたし、自分たち全員は監督と野球がしたいし、全国大会に行きたいという思いでした。自分たちが変わるきっかけになった出来事でした」と、意識が足りないことに気付くことができた。監督と大好きな野球を奪われる危機を防いだだけでなく、チームの絆の結び目がより一層、固くなった。
この交野リトルシニア41期生たちは、第51回日本リトルシニア日本選手権ベスト8、第17回ジャイアンツカップ出場、第29回日本リトルシニア選抜ベスト8と、3度の全国大会出場を果たすことができた。野球の楽しさと喜びを感じた主将は「最初はみんなの気持ちがそろわずに、悩んだ時期もありましたが、最終的に一つになれました。厳しい指導や怒られたことに耐えることができたのは、岩橋監督だったからだと思います」と感謝した。
野谷主将に最後、なぜ厳しさの中でほとんど部員が辞めずに、さらに次のレベルで野球を続ける気持ちになったのか? と同級生たちの思いを代弁してもらった。
「怒られた内容に理不尽なことは一つもなく、説明やフォローがあって、全部、意味があることだと思えたからです。あとは高校で活躍して、レギュラーをとって、監督にいい報告をしたいからですね」
叱る指導は決して悪ではない。大事なことは選手にその意味が伝わっているかどうかにある。
(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)
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