走りが劇的に速くなる“体の角度” 「リラックス」に潜む誤解…固めたい下半身の部位

走塁が劇的に変わる体の使い方や練習法とは(写真はイメージ)
走塁が劇的に変わる体の使い方や練習法とは(写真はイメージ)

盗塁王指導のプロトレーナー・安福一貴氏が推奨…自宅でできる“簡単”練習法

 腕の振りと体の角度が、スタートダッシュの肝になる。走り方を中心にプロ野球選手も指導するプロトレーナーの安福一貴さんは、速く走る方法と野球に適した走り方があると強調する。関係が薄いと思われがちな腕の使い方や、自宅でもできる練習で、走塁は劇的に変わる可能性がある。

 安福さんは西武や巨人でプレーした片岡保幸さんや巨人・中山礼都内野手ら数々のプロ野球選手の“足”をサポートしている。パフォーマンスを上げるための打ち方や投げ方があるように、走力や走塁技術を向上させる理想の走り方がある。安福さんがポイントの1つに挙げるのは、腕の使い方。その理由を説明する。

「腕の振りは速く走る上で不可欠です。足が4回動いている間に腕を6回振って走ることはできません。走る時は、足と腕を動かす回数が同じになります。つまり、腕の振りが遅くなれば足のピッチも遅くなるわけです。ピッチが速くならないと、スピードは出にくくなります」

 陸上の100メートル、200メートルの選手であれば、ピッチが遅くてもストライド(歩幅)を大きくすることでタイムを伸ばす選手もいるという。ただ、野球は走塁も守備も短い距離のダッシュが重要になる。そのためには、腕を素早く振って、足の回転数を上げていく走り方が求められる。

 腕を速く振ろうとして首や肩に力を入れすぎると逆効果になる。安福さんは選手たちに肘を高く上げるように伝える。すると、自然に肩の力が抜けて、肩甲骨が大きく動く。そして、安福さんはリラックスという言葉にも注意が必要だと指摘する。

「力むとスピードは出ません。しかし、一定の力を入れないと腕は振れませんし、足も動きません。体全体の力を抜くのではなく、お腹とお尻の穴に力を入れる意識で、必要な部位は固めるイメージを持ちます。リラックスだけが独り歩きしないように、余計な動作や力を省く考え方が大切です」

プロトレーナーの安福一貴氏【写真:伊藤賢汰】
プロトレーナーの安福一貴氏【写真:伊藤賢汰】

角度をキープできない場合は体幹を、足の回転が遅ければ股関節を強化へ

 もう1つ、加速で欠かせない要素が体の角度にある。盗塁に象徴されるように、足の速い選手は低い姿勢から徐々に体を起こしながら一気に加速する。安福さんは「トップスピードに乗るのは上半身の角度が70~80度で、盗塁の場合は60~70度で走ってスライディングする形が、速く走る基本になります。力が入りすぎると体が反ってしまい、十分に加速できません」と話す。

 理想の角度を保つための練習で勧めるのは、壁を使ったメニュー。両手を壁について立ち、上半身で60~70度くらいの角度をつくって、その場でダッシュする。体の角度をキープできない場合は体幹を、足の回転が遅ければ股関節を強化する、という課題が見えてくる。安福さんのもとを訪れる野球選手をはじめ、他の競技のアスリートも取り入れているという。

 野球では「足にスランプはない」と言われるが、実際はスランプがあると安福さんは強調する。陸上の短距離でも標準記録を切って五輪に出場した選手が一次予選で敗退するケースは珍しくない。調子が良くないと地面を蹴る力が弱くなり、間延びしたような走りになってしまう。フォームや調子の波でスピードは変わるだけに、理想的な体の角度や腕の振り方を身に付ければ、足は選手の大きな武器になる。

(間淳 / Jun Aida)

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