野球場“取り壊し検討”に部員反発 背景に国公立財政難…廃部へ危機感「連鎖しないで」

取り壊しが検討されている秋田大の野球場【写真:秋田大硬式野球部提供】
取り壊しが検討されている秋田大の野球場【写真:秋田大硬式野球部提供】

財政難と老朽化進み…国立秋田大学が野球場取り壊し検討を通達、部員は署名活動

 国の交付金減額や物価高により、財政難に直面している国公立大学は少なくない。そしてその影響は、大学球界にも及びつつある。秋田県秋田市の国立秋田大学は、財政状況の改善を目的に、老朽化が進む大学所有の野球場の取り壊しの検討を始めた。一方、野球部員はこれに反発し、署名活動や意見書の作成を進めている。野球場の修繕には膨大な費用がかかるが、なくなれば野球部は実質、廃部となる可能性がある。果たして両者の折り合いはつくのか。

 秋田大には硬式野球部、準硬式野球部、軟式野球部の3つの野球部がある。硬式野球部は北東北大学野球連盟に加盟しており、前身の東北大学野球連盟北奥羽リーグ時代の1970年代に複数回リーグ優勝を経験。現在は2部リーグ所属で、今秋は6勝4敗で3位と健闘した。

「野球部はこれからどうなってしまうのか、みんなの気持ちは大丈夫なのか……不安と怒りがこみ上げてきました」

 秋田大硬式野球部主務の若狭ひなたさんによると、大学側から野球場取り壊しの検討についての通達があったのは今年の9月中旬。取り壊しを実施する場合の時期を「早ければ来年、遅くとも数年後」と伝えられ、危機感を覚えた若狭さんは、野球場を共有する3野球部の部員に呼びかけ署名活動と意見書の作成に着手した。

 秋田大の野球場は、野球部員の多くが通う「手形キャンパス」に隣接している。1950年に秋田県が県営野球場として開場し、1974年に秋田大へ売却された。面積は2万378平方メートルで、ナイター用の照明設備が6機設置されている。

 近年は老朽化が加速。雨が降ると水たまりができ、晴れると土の表面が硬くなる状態だという。また内外野ともに雑草が生い茂っており、グラウンドには凹凸がある。これまでに数回、大学側に修繕を依頼したが実現には至らず、野球部員が自ら整備や除草を行って最低限の状態を保ってきた。

 硬式野球部の場合、リーグ戦に参加する際の移動費や宿泊費などに年間130万~150万円がかかり、それを部員で協力して捻出している。野球場の修繕を大学の補助なしに進めるのは不可能に近い。そんな中で突然、取り壊しの話が持ち上がった。

部員自ら整備を行い状態を保ちながら練習する【写真:秋田大硬式野球部提供】
部員自ら整備を行い状態を保ちながら練習する【写真:秋田大硬式野球部提供】

一般大会の会場や地域振興にも可能性「野球をする場をなくさないで」

 大学側は現時点では、「取り壊しを選択肢の1つとして検討し始めた段階」としている。今後取り壊しが決まった場合も廃部にはせず、代替施設を利用して活動を継続してもらう考えだ。

 しかし、部員の不安は募るばかり。代替施設の候補に挙がっているグラウンドはキャンパスから離れている上、状態は悪く、広さやネットの高さも十分ではない。若狭さんは「移動に車を使わなければいけなくなるし、そもそも硬式も準硬式も軟式も、(状態の悪さから)おそらく練習ができなくなる。廃部まで話が進んでいるわけではありませんが、代替施設を使うことになれば、実質(部は)なくなってしまうのではないかと怖くなりました」と話す。

 また学内にプールや陸上競技場など同じく老朽化の進む運動施設がある中、今回は「財政状況の改善」と「教育・研究の維持」の両立を念頭に置く大学側の判断のもと、野球場が取り壊しの候補に挙がった。大学側は野球場維持の優先順位を下げているわけではないというが、この判断に対し野球部員が「一番必要ないと判断された。そんなに軽視されていたのか」と不信感を抱いているのも事実だ。

 野球場は一般の大会の会場としても使用されており、過去には秋田大と中学生チームで練習試合を行ったこともあるという。野球場が今後も残れば、子どもを対象とした教室を開催するなど地域振興にも活用したいと考えている。

「どこの国公立大も財政難や施設の老朽化を問題として抱えていると思う。(ほかの国公立大に)連鎖してほしくはないし、そうならないために、国にも対策を考えてほしい。国公立大の野球部員は野球が大好きでやっている選手たちばかりなので、そういう選手たちが野球をする場を奪ってほしくないです」と若狭さん。“野球”を守るべく、取り壊し反対を訴え続ける。

(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)

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