「大人が自己満足に陥ってないか」 私財2億投じ…筒香嘉智が野球育成に尽くす理由

昨年12月の「TSUTSUGO SPORTS ACADEMY」竣工式に出席した筒香嘉智【写真:喜岡桜】
昨年12月の「TSUTSUGO SPORTS ACADEMY」竣工式に出席した筒香嘉智【写真:喜岡桜】

DeNA・筒香が「HEROs AWARD 2024」受賞…兄が語った“夢”の現在地

 社会貢献活動に取り組むアスリートやチームを表彰する「HEROs AWARD 2024 表彰式」が16日に東京都内のホテルで開かれ、球界からはDeNA・筒香嘉智外野手が受賞した。筒香本人はビデオメッセージを寄せ、10歳上の兄・裕史(ひろし)氏が会場に出席した。

 筒香は昨年12月、出身地の和歌山県橋本市に約2億円の私費を投じ、両翼100メートル・天然芝のメーン球場、内野のみのサブグラウンド、室内練習場からなる総合スポーツ施設「TSUTSUGO SPORTS ACADEMY」(筒香スポーツアカデミー)を完成させた。

 これに先立つ同年4月には、硬式少年野球チーム「和歌山橋本Atta Boys(アラボーイズ)」を結成し、野球少年育成に奮闘していることが評価された。アラボーイズでは筒香がオーナーを務め、裕史氏は代表として、小学生約60人の選手たちと日々向き合っている。

 1日限りの野球教室などとは違い、現役選手がここまで主体的に、野球少年の指導に乗り出している例は極めて珍しい。筒香はビデオメッセージの中で「子どもたちが数年かけて、どう変わっていくのかが非常に楽しみですし、私の大きな原動力になっています」と語った。

 そして「(少年野球指導の現場で)大人の指導者が自己満足に陥っていると感じました。子どもたちが言うことを聞かなければ、怒って怒鳴る。これは子どもたちのためになっているのか、と考えたことが(活動の)きっかけになりました」と明かしている。

 手本は、中米のドミニカ共和国にあった。筒香は2015年のシーズンオフに、志願してドミニカ共和国のウインターリーグに参加。現地の少年野球に触れ、「子どもたちが生き生きとしている。何よりミスを恐れていない。失敗からたくさんのことを学んでいく姿勢が徹底されていて、それを指導者がいい距離感で見守っている」と感じたという。「(日本国内で)提言をするだけでなく、モデルとなるチームをつくりたいと思って始めました」と付け加えた。

 ビデオメッセージの最後では「子どもたちには、自分で考えて、いろいろなことを解決できるようになってほしい。プロ野球選手になることがゴールではないし、プロになれなかったからといって失敗ではない。自分の力で生き抜く土台になればと思っています」と強調していた。

「HEROs AWARD 2024」表彰式に出席した筒香の兄・裕史氏【写真:宮脇広久】
「HEROs AWARD 2024」表彰式に出席した筒香の兄・裕史氏【写真:宮脇広久】

「大人が先にポンと答えを言わないことが大事だと思っています」

 裕史氏も「自分で考えることのできる子どもの育成」を念頭に、指導にあたっている。「たとえば、試合でショートの守備位置が違うなと思った時、指導者が『ショート、もっとこっちだ』と言ってしまってはいけないと思います。ベンチに座っている選手に『打者の打順は何番で、前の打席ではどこに飛んだっけ?』とさりげなくヒントを与えて、子ども自身が考えて『ショート、こっちだ』と声をかけてくれたら、正解だと思います」と説明する。

「大人が先にポンと答えを言わないことが大事だと思っています。選手に『自分が気付いた』と思わせていい。そこで指導者が自分の手柄みたいに『俺が言った通りだろ』なんて言ってしまったら、元も子もありません」

 こうした取り組みもあって、最近は日本でも、少年野球から学生野球に至るまで、体罰や頭ごなしの言葉の暴力が排除される傾向にある。そのあたりを筒香兄弟はどう感じているのだろうか。

 裕史氏は「さすがに指導者が暴力を振るうシーンは、ほとんど見なくなりました。変化は感じています」とした上で、「ただ、私自身を含めて指導者たちには、野球とは監督がサインを送って選手が忠実に実行するものだというベースがある。その習慣も大事な面はありますが、結果的に『指示を出してください。僕は何をすればいいですか?』という心構えができあがっている気がしています」と指摘。「野球というスポーツを通して、子どもたちが生きていく力を身に付けているのかというと……まだまだ、そこまで行っていないと思います」と力を込めた。

 ちなみに、筒香には双子の姉もいて、3人きょうだいだという。子どもが自分の頭で考え、自分の力で生きていく力を養えるような野球を目指して、筒香兄弟のチャレンジに終わりはなさそうだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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