「野球を辞めたい」と言った息子、父は「ありがとう」 たどり着いた驚きの結末

投手を始めると、打撃も復調し、地域の大会で優勝に貢献

「息子はピッチャーを始めてから、急にバッティングの調子が戻ったんです。あれだけ苦しんでいたのに……。体が大きいので投げる球にも力があったりして、主戦を任されるようになりました。最終的には80チームくらい出場する地域の大会で優勝することができまして、息子はMVPになりました」

 半年前まで「辞める」と言った子が駆け上がった飛躍の階段。そこには子どもの未来を真剣に考える大人の言葉が支えとなっていた。活躍もあり、卒団時に中学の野球チームから誘いはあったが、息子からは中学に入ったら卓球部に入ることを告げられた。

「本人はすごく迷ったみたいです。悩んで悩んで決めた。それが一番の答えかなと思います。本人が興味を持ったものに対して、親としてはしっかりサポートをしていきたいと思っています」

 二人の間では一度、野球にサヨナラを告げていた。悔いのないように、最後までやり切ること、やりたいポジションをやって終わることを目指し、有終の美を飾った。親子が描いた“ストーリー”は少年野球チームの卒団とともに完結したのだった。新たな一歩を違うスポーツで踏み出したことについて、父に異論はない。

「息子は今、卓球にどハマりしてますよ(笑)。まだ語れるほどでないですが、私もよく試合に応援に行き、楽しんでいます。テクニックを覚えて、前向きに練習をしていますね」

 父のBさんは幼少の頃、親の言いなりだったという。野球部に入れと言われるがまま高校まで野球を続けた。自分から意思を伝えることが許されない状況だった。だから当時「野球が楽しい」とは言えなかった。

「子どもが親に相談しづらい雰囲気ってあるじゃないですか。私は『こんなこと言ったら怒られるから黙っておこう』みたいなタイプの子どもでした。そういうタイプの子になってほしくなかった。できれば、大人からいろいろと吸収して、いろんな言葉をかけてもらって、育ってほしいなと思っていました。なので、私自身、子どもに対して『いつでも話かけてもいいよ』という空気を出すことを心がけていました」

 野球をする子どもと親の距離感は難しいと言われる。関わりすぎてもいけないが、放置することにも限度がある。野球の先に見ているものは何なのかが大切だ。今回、話を聞いた親子の場合は、勝利でもない、進路でもなく、ゴールは“心の成長”にあった。

 最後に父に聞いた。息子にかけてあげたい言葉はなんですか?、と。

「最後の半年は本当によく頑張った。自分でたくさん考えて決断して、それをやり抜いたこと。今後、壁に当たったとしてもその経験を糧に立ち向かってほしい。と言いたいですね」

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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